デジスコについて
デジスコとは
野鳥観察者の間で今流行しているデジカメを使った超望遠撮影のこと。主にスポッティングスコープ(フィールドスコープ)の後ろにデジカメを接続して撮影する方法。この方法は正式にはコリメート撮影といい、望遠鏡(顕微鏡・双眼鏡など)の接眼レンズの後ろに普通のカメラ(レンズ固定式)を当てて撮影する方式で、銀塩カメラでは以前から惑星観測者など一部の間で行われていた。今回デジスコの可能性をさぐってみた。
1.使用した機材は
○スポッティングスコープ コーワ TSN-664 口径66o 焦点距離420oEDレンズ使用
光学系も優秀で、デジスコのためのアダプターも完備している。メーカーもデジスコを考えたアクセサリーを開発している。他社はコーワほどデジスコを意識していない。
○アイピース 20倍ワイド 倍率としては低倍率になる。ネットでは30倍がよいと書いてあったが、倍率が高いほど使いにくくなるので20倍にした。結果的には正解であった。
○デジカメ ニコン クールピクス 4300 8から24ミリ 4メガピクセル (ケラれが少ないということでデジスコとしては最適といわれている。)デジスコでは35o換算1600〜4800o。
○アダプター コーワ TSDA1+N4300
○三脚 ハクバ カーボン 雲台 ベルボン マグネシウム
三脚としては一眼レフに300ミリ望遠が使えるレベル。
2.銀塩カメラのコリメート撮影とデジスコの比較
銀塩カメラのコリメート撮影 1.ピントあわせ 別の無限遠にピントを合わせた小倍率の望遠鏡で接眼鏡をのぞき、ピント合わせをする。アイピースをのぞいただけでは、目自体にピント調節機能があるので正確には合わせられない。 2.場合によっては超望遠過ぎる。焦点距離は倍率×撮影レンズの焦点距離になるので普通の最低倍率の25倍、カメラの焦点距離35ミリとしても875ミリのレンズとなる。 3.一眼レフ以外ファインダーがないのでいちいちカメラをはずして対象を確認しなければならない。当然動きのあるものは撮影できない。 4.きちんとしたアダプターがないと光軸がずれる。像が中心に来なかったり、画面の端でぼける。大きいメーカーではアダプターがある。 5.望遠鏡とカメラがセットになっているので大きく重く、機動性に欠ける。昔の望遠鏡は焦点距離が長く、望遠鏡とカメラのアダプターもしっかり接続できるものが少ないので持ち歩くのは大変。
6.像が大きくなる分、暗くなるので露出、ピント合わせがむずかしい。
惑星観測者にとって惑星は非常に小さい被写体であるのでケラレは無視できる。しかし普通の写真では無視できない。
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デジスコ 1.ピントあわせはAFに任せることもできるし、デジカメのモニタでもある程度確認できる。
2.これは一番低い倍率でも20倍程度なので超望遠レンズになってしまう。我慢するしかない。
3.これもモニタで確認できる。ただし、超望遠なので動きが早い被写体は撮影できない。外付けの低倍率ファインダーを使用している人もいる。 4.メーカーでアダプターを出しているところが増えてきた。
5.EDレンズ、フローライトレンズの出現によって収差補正が以前とは比べ物にならないほど良くなり、焦点距離を短くできるようになったので、昔より短く収差のない光学系が手に入る。(フローライト・アポクロマートが出現する前の標準はF15であった。現在はF2.8というのも作られているが普通はF6前後である。)又、デジカメも小型軽量である。また、フィールドスコープは正立像を得るためのプリズムがあり、そこを通過する分更に短くなる。一眼レフに300oF4のレンズをつけた感覚で35o換算1000o〜3000oという超望遠撮影が可能である。 6.デジカメの場合、画面(CCD)が小さいので必要な画角を得る焦点距離が短いため、明るさがそれほど減らない。たとえば、デジカメの標準レンズが7ミリとすればそれをスポッティングスコープで焦点距離を20倍すると140oになる。スコープのレンズの直径が70oとすればレンズの明るさはなんと140÷70=F2である。35oカメラに比べレンズの焦点距離が短い分明るさには有利なのである。ちなみに35oカメラで35oレンズの場合は焦点距離が700oFが10となる。 7.一般に画面の大きさが大きいほど、レンズの画角が大きいほど、カメラと接眼レンズの距離が大きいほど、カメラのレンズの直径が大きいほど、接眼レンズの直径が小さいほどケラレやすい。コンパクトデジカメのCCDは普通1/2インチ以下なので対角線でフィルムの3割以下(面積で1割以下)しかなく、レンズも小型なのでケラレにくい。 |
これをみるとデジスコでは銀塩によるコリメート撮影の欠点がほとんど解消している。しかし・・・・
3.デジカメならではの欠点
1.デジカメ特有のタイムラグがある。タイムラグがあるために動きのある被写体では99%イメージした写真にならない。超望遠撮影なので被写体の動きも標準レンズに比べて大きくなる。連写機能を利用する手もあるが「自分が撮った写真」ではなく「撮れた写真」になってしまうのだ。これは写真を撮る人にとっては致命的な欠点で、プロはまず使わないシステムだ。このため大量に撮影することになり大容量のメモリを要求される。チャンスを逃したときは隣の一眼レフを使っている人がうらやましい。
シャッターを切ったときは・・・・
2.メモリに書き込んでいる間はシャッターが切れない。これは非常にいらいらする。シャッターチャンスというのはある時間に集中することが多いので、大きな欠点となる。
3.普通の撮影以上に電池を消耗する。デジスコの場合、常にAFが動作していて、シャッターチャンスを狙い被写体を追いかけている時間が長く、ただでさえ撮影枚数が多い上に、昼間ならモニタの照明を明るくしていることが多い。どれをとっても電池を消耗する原因である。カメラの専用バッテリーは非常に高価なので外付けの電源を用意した方がいいだろう。COOLPIX4300の場合、間欠使用で3時間くらいしか持たない。しかし、これでも持つ方らしい。
4.メモリの容量が必要。デジスコの場合ピントと構図が思うようにならないことが多い。そのため、通常より多く撮影する。また、連写機能を使うとさらにメモリを消費する。そのためなるべく大きいメモリが必要だ。ただ、フィルムと違って何回も使い回しができるので経済的ではある。
5.明るいところではモニタが見にくい。明るく調節してもみにくい。そのため専用のフードを使っている人が多い。
葛西臨海公園からみた羽田空港(2400mm相当)
4.試し撮り
条件は
葛西臨海公園で野鳥をねらう。都会では超望遠撮影に適当な被写体が少ないので飛んでいない野鳥をねらうことにした。
*10月5日*
天候は快晴、風もほとんどない。時間は午後2:00〜4:00
以上の条件で60枚ほど撮ってカメラのモニタで確認し、ピンボケや構図がずれているものを除いたら23枚ほど残った。帰宅してから、それをパソコンの画面で確認したところピンボケ・被写体ぶれがあり、一応満足できるものが9枚であった。確率としては十数%で、初めてでは上出来と評価するかどうかは意見の分かれるところではある。ただ、そのうち静止している被写体が半分程度であるので動いている物は10%にも満たないということだ。できれば1/4〜1/3位はほしいと思う。
ぶれの原因は先ほどと重複するが
・ AFのピントはずれ(手前や奥の草にピントが合っている)。特に望遠側でのずれが目立つ。
・ 三脚のネジの締め不足
・ タイムラグによる被写体移動
・ シャッタースピード不足:晴れの昼間で、広角側(35ミリ換算800o)1/250〜1/500秒、望遠側(同2400ミリ)1/30〜1/60秒
35ミリカメラではぶれないシャッタースピードの下限は焦点距離分の1秒といわれているので広角側はぎりぎり大丈夫としても、望遠側はぶれないほうがおかしいシャッタースピードである。
最初すずめを狙ったときに「鳥は非常に小さい被写体」だと感じた。15m先のすずめがデジスコでアップにならないのだ。画面に数羽も入ってしまう。しかし撮影を続けるうちに超望遠撮影の困難さを知る。アップにしようとするとピントが合わない、被写体が移動してしまう等、問題が続出する。
もっと撮影しやすくするには、カメラの機能をよく研究し、撮影モードを活用して歩留まりをよくする。また、外付けのファインダー、たとえばライフルスコープやドットサイトなどもつけてみたい。レリーズも必要。また、三脚に微動装置をとりつける、できれば電動がよい。これに関してはミザールという天体望遠鏡メーカーから電動経緯台が14800円で出ているので使ってみたい。(http://www.mmjp.or.jp/takahashi-sb/data/mizarkd.htm)しかし、一番効果的なのはスポッティングスコープの口径を大きいものに変えることだ。低倍率で焦点距離が稼げるし、明るさも確保できるので、早いシャッターによりブレが防止できる。市販品の最大口径は8.5pだが、私は12cmは欲しいと感じた。(望遠鏡では30万円以上)それでも2000oで1/125秒くらいであろう。
*10月19日*
こんどは前回の失敗を教訓に、デジカメの撮影機能を生かすようにするため、マニュアルモードを使う。ただし、マニュアルといっても自分で露出、ピントを決めるのではなく、オートの方式を自分で設定できるということである。オートのカメラしかない世の中ではこれがマニュアルなのである。私個人としてはマニュアルという言葉を使わないでほしい!私の設定は以下の通り。
・測光方式はマルチ ・連写 ・CAF、マニュアル
に設定する。その結果タイムラグか約1秒と少なくなった。
・ ライフルスコープを自作し取り付ける。性能は1倍、十字線入り、超ハイアイポイント。被写体を導入する時間が大幅に短縮したので、すぐ撮影に入れる。
・ 止まっている被写体はズームアップしてピントを合わせる。(マニュアル)効果のほどは良くわからない。
2:30〜5:30まで120コマほど撮影し、フレームからはみ出したものが約20コマ。残りの100コマのうち、手ぶれ、被写体ぶれ、ピンボケが約50コマ。前回に比べると、写っている数はかなり多くなった。しかし、相変わらず動いている被写体は苦手である。タイムラグが減ったとはいえ1秒もあれば20倍の拡大率だから、被写体も20倍のスピードで画面をかけ抜けていく。動きを予想してシャッターを押すのだがなかなか中心に入らない。また、タイムラグが減った分カメラブレが目立つ。レリーズと微動装置を導入したほうが良いだろう。
5.最後にデジスコの可能性
超望遠撮影を身近なものにしたということでデジスコは画期的な方法である。しかし、誰でも今日から超望遠撮影ができるかというと答えはNOである。やはり、基本は銀塩の超望遠撮影とまったく同じであるので、経験のない人には一苦労あるだろう。とはいうものの機材が圧倒的に身軽になった点は見逃せない。デジカメのCCDが大きくならずに性能アップしてくれればさらに可能性が広がると思う。
一眼レフのデジスコの可能性について
かのカールツアイスの双眼鏡で、片方の光学系に一眼レフを接続して撮影できるようにしたものがあった。だから、メーカーが一眼レフデジスコ用の光学系を作ってくれれば可能になるだろう。
しかし、CCDが大型のため、焦点距離を稼ぐと明るさが不足する欠点がある。それが克服できるともっと画質が向上するだろう。
参考サイト
デジスコ関連
http://members6.tsukaeru.net/fromn/fpc/
コーワ光学事業部